中身の無い鯉幟が実の無い話書くよ―

私、鯉幟(本名ではありません)が淡々と変な事書くブログでございます。センスも無ければユーモアも無い”実の無いブログ”ですがよろしくお願いいたします。 

【感想】終のステラ

 



はじめに

 
新年あけましておめでとうございます!!
 
なんて、言える時期はとうの昔に過ぎてしまった2月。
それも終盤に差し掛かった2月。
 
皆さんこんにちわ。
更新頻度が遅い駿河台鯉幟です。
今宵もなにかを綴るため、重たいゲーミングキーボードの位置を調整し始めました。
今回は最近プレイした『ノベルゲーム』が面白かったのでそちらの紹介と感想を残しておきたいと思います。
※最初からネタバレフルオープンになります。
 
 

終のステラ

key.visualarts.gr.jp

 
ノベルゲームブランドKeyから発売された「キネティックノベル」作品です。
なにやら従来のノベルゲームとは少し違った名称を謳っている本作ですが、
公式サイトによると、キネティックノベルとは
純粋なストーリーを動的な演出で楽しむ短編ノベル作品です。
高品質のシナリオと美麗なグラフィック、そして心を揺さぶる音楽による感情移入を追究し、キャラクターと世界観の魅力、そして感動をお届けします。
という説明がされており、
美少女ゲームによくある選択肢を選んで自分好みなヒロインとの触れ合いを楽しむ、ストーリーをクリアする遊び要素が含まれたシュミレーションゲームとは違い、
プレイヤーは自分が操作することによって作品に干渉するはことなく、クリックで流れてくる物語演出を見て聴いて楽しむビジュアルノベル作品という意味を指しているようです。
ぶっちゃけると、こういった類のゲーム自体は古くからあるので珍しいものでは全くないです。
ただ、一概に呼べる名称もなかったのでkeyさんがつけたのかもしれません。
 
 

あらすじ

人類が営む文明が荒廃した世界。
感情を捨て、理性のもと合理的に生きるジュードは、依頼遂行中に見た目や言動が人間と瓜二つなアンドロイドのフィリアと出会う。
彼女こそが依頼主が求めていた代物。彼女を依頼主のもとに運ぶのが彼の依頼内容だ。
暴力を用いらなければ多くを解決出来ないこの世で見せるフィリアの根拠なき博愛主義は、終始ジュードを苛立たせてばかり。
そんなジュードの足を引っ張っり続ける彼女の「感情」によって、ジュードの心は少しずつ揺れ動いてゆく。
 
 

どんな話?

SF作品でよくとりあげられる「アンドロイドに心はあるのか?」をテーマにしながら、主人公とアンドロイドのふれあいを描いた少しアクションありきなSFヒューマンドラマです。
世界の命運の握るアンドロイド少女を持て余す主人公が土壇場で世界と少女どちらをとるか、決断を迫られたりするようなお話。
 
 

感想

面白かったです。一本道のノベルゲームとしては満足の出来栄えでした。
とりわけ世界観、セリフ回し、構成と田中ロミオ氏の手腕が光っていたと思います。
少ないボリュームで、問いかけであるテーマ性を強調しつつ、一つの物語としても純粋に楽しめるもので、非常に高い完成度を誇っていました。
もちろんビジュアル、音楽面も決して悪いわけではなく、とても好きになったCGもあったりと引けを取らないくらいに高品質に作り上げられていました。
 
 
 
SF要素が高純度で盛り込まれていた
AIと人間が対立することによって、文明が荒廃してしまった世界を題材としており、
「なぜAIが生まれ、このような現状に陥ってしまったのか」を土台としてシナリオが展開されていくのですが、
その過程ともいえる世界感が重厚且つ丁寧に練り込まれていたと思います。
本作には、現代には存在しない架空のものが多数登場します。
それらにはちゃんとそこにあるまでの歴史があって、なぜそこにあるのか、今を生きるジュード達とどう関わりがあるのか、SF作品特有のガイドするような語り口で都度説明が入るのですが、
むっっっちゃ分かりやすかったです。容易に各所の時代背景を想像できるくらいには。
なので、脳内リソースを設定理解に注力することなく、ストーリーに集中できたと思います。
また、本作の世界観に対する解答が頭一つ抜けたような独創性のある切り口で、とても興味深い内容でした。
なんだか新しい知見を得られた気分で、男子心をくすぐられてましたね。
同時にそこでボロが出てきそうな点についても、ジュードが公爵に任務内容を確認するという体裁でフォローがされていて、考えられてるなあと。
ストーリーを読み勧めていく上で、こういった世界観の"穴"というのはどうしてもノイズになりがちなのですが、
それを一切抱くことなく、隙なく劇中で完結するように組み上げられていました。
そもそも、かなりスケールの大きいものだと思うのですが、短いボリューム故に理解できるギリギリラインまで情報を削減し、
且つSFを知らない人でも楽しめるようなシンプルなものに出来上がっている時点で相当凄いことだと思います……田中ロミオ氏の手腕に脱帽しぱなしです。
こういった土台があるからこそ引き出される魅力もあると思います。
 
 
 
フィリアに対しての「怒り」がトリガーとなって、ジュードの中に眠る多くの感情を呼び起こしていた、フィリアの感情器官に変化をもたらしていた
本作のテーマの一つとして、「フィリアとジュードが旅を通して人間らしい感情を手に入れる(取り戻す)教養小説」があるのですが、
全体を通してジュードの「怒り」が多くの起点となっていたのが印象的でした。
確かに「怒り」はわかりやすく見えて、形容し難く、多くの感情がないぜになっていそうですよね。悪意であったり、慈しみであったり、後悔であったり。
作中では怒りを通して、過去の妻の記憶と感情を思い出していたりと、望んで捨てたあの頃の感情を呼び起こしています。
人間らしい感情という側面で、「怒り」を始点としてフォーカスしているのは、ある意味他人とコミュケーションをとる生き物である人間特有のやり方なのかもしれません。
また、対象が一人、一つだけだと生まれてこない感情なので、この怒りが「感情を手に入れるためには"誰か"がいなければならない」という暗喩にもなっていて、
この作品が「ジュードとフィリアの二人の物語である」ことを強く推し出しているようにも捉えられるが良いなあって思います。
あと、個人的にノベルゲームで一番好きなシーンが「ヒロインと喧嘩する」シーンなので、いっぱい喧嘩してくれて嬉しいです。
 
 
 
普段意識せずに振り回してきた「感情」の存在意義、尊さを享受できる作品
「喜び」「悲しみ」「怒り」といった普段僕らが意識せずに抱く感情をフィリアが習得することで、より人間に近しい高位の存在として段階を上げていきます。
最初はそれをジュードと一緒に「こいつ立派に涙なんて流していやがる……」と驚くだけだったのですが、不完全なものから一つ一つ足りないパーツを拾い上げていく様子を見てると、
彼女に大きな変化をもたらす感情という要素はとても大きく、大切なものなんだなと強く思えてならないです。
先程の「怒り」にも通じるのですが、感情を見せるという点でフィリアがジュードに銃を向けたシーンがとても好きです。
目を赤く点滅させ、涙を流しながらも力いっぱいに銃を握りしめる彼女の表情は、感情の濁流で満ち満ちていて衝撃が走りました。
バックで流れるメロディがこれまた切なく、彼女の怒りにどんな感情が含まれているのかを暗喩しているようで、何気なく振りまいている感情がいかに尊いものであるか考えされました。
 
セカイ系でよくあるエンドを「ハッピーエンド」に振り切らずいい塩梅でまとめてくれた。
冒頭で満足の出来栄えと記すのは、本作がとても自分の好みなエンディングだったのが一番の理由かもしれません。
個人的な好みの話をしてしまうのですが、自分は"ご都合主義"がかなり受け入れられない人間のようで、
本作のジャンルでいう「セカイ系」でよくある「ヒロインとセカイを天秤にかけられるも、奇跡が起きて万事解決ハッピーエンド!! ヒロインも世界もよくわかんないけど平和!」みたいな理想郷エンドに納得できた試しがありません。
そういった点で従来の有象無象とは違い、本作は物事の重量を無視することなく、きちんと差し引きされていて、
「フィリアを救うためには、このくらいのリソースを割かなくてはいけない」と指し示していたのは非常に好感が持てました。
やっぱり、世界とフィリアを天秤掛け、フィリアをとった際の代償というのは世界と同等のものでなくてはいけないと思うんですよね。
実際、フィリア救うために選んだジュードの選択は十分に納得できる内容でした。「これか、世界の未来差し出すかの二択しかない」と思っていたので。
逆にもしも一石二鳥なウルトラCで全ての問題を解決してみせたら、僕にとっての作品の色は損なわれていたと思いますしね。
そして、一件落着した後の"余韻"は涙腺が刺激されっぱなしでやばかったですね……。
映画みたいというと稚拙な感想になってしますが、クリックしているのにテキストの調子でほんと映画を見てるかのような間を感じましたし、
ゆっくりと彼に残された時間が少なくなっているのを体感できました。そういうのが大好きなんです。
ほんと、良い往生際だったと思います。
 
 
雑感(プレイ中に残したメモっぽいものを箇条書きにあげときます)
・シンギュラリティマシン14200 tあるけど、地面支えられるの?
・「科学的条件を満たすというわけではなく、もっと根本的な意味合いで人間になりたい」と答えるアンドロイド→ヒトではなく、人。「人」を「人」たらしめる条件とはなにか
・「名前はフィリア」
フィリアとは愛、友愛を意味する。この時点でジュードと恋愛関係に落ちることはなさそう。
・対象が無知であればあるほど、良心がある人間が感情を刺激され庇護欲を掻き立てられてしまう。
・最序盤でこのお話の道筋を立ててくれたおかげか、話を飲み込みやすい。
・ゲーム起動音がデスストのメニュー表示/操作音みたい
・常に危険と隣り合わせであるがゆえに緊張を解いてはいけない日中とは違い、眠りにつく夜は穏やかに時が流れる。
 夜空に浮かぶ雲の隙間から見える星々の光と共に流れるBGMが良かった。どこか眠気を誘うような優しさと過酷な旅路を忘れさせてくれる心地よさがあった。
・フィリアは恐怖を知らない
・フィリアの自我の初期情報は親人類派、博愛主義といった思考ベクトルが備えられている。→人間社会に溶け込ませるため。
・博愛主義というのは「人間らしい」という意味合いにつながるのか?
 →繋がらないと思う。博愛主義という考え方は、文化的な生活を営んだ末に根付くものであると思うから。
 →「文化的な人間らしさ」という視点で見れば博愛主義は人間(文化的な)らしいのかもしれない。
・壊れかけのデリラを目的地まで同伴させようとするジュード。無駄な行為だとわかっていても「別に無駄で構わなかった」と吐き捨て車に乗せる行為は彼に大きな変化が起きている決定的な証拠
・フィリアが海を不気味に感じる理由
 →どれだけ地上で凄惨な悲劇が繰り広げられても、海は波音を変えずどこまでも傍観者だから?
・ジュードとフィリアはベクトルが真逆だが、同じ「人間らしくなる」ことへ収束していっている。ジュードは過去の感情に。フィリアは未知(未来)の感情に。
・死ぬ間際の感覚を描くのってすごい
 
 
 

終わりに

 
いかがだったでしょうか。僕のノベルゲーム趣味のきっかけになったようなライターさんの新作を今も楽しむことができるとは、当時は夢にも思っておりませんでした。
それこそ音沙汰を一切聞かないので、空に浮かぶステラ(お星さま)になったしまったんではないかと不謹慎なことを考えたりもしましたね……。
ここ数年、業界の知人が鬼籍に入ったり、好きなギャルゲーブランドが解散したりと暗い話を耳にする一方ですが、明るく未来を照らす一番星として今後も最前線で活躍されることを願うばかりです。
おまえはどうなんだって? ぼくはほら、惑星なんで取り巻きとして恒星様の周りをぐるぐる回り続けます←

それでは皆さまさようなら。また会いましょう。