中身の無い鯉幟が実の無い話書くよ―

私、鯉幟(本名ではありません)が淡々と変な事書くブログでございます。センスも無ければユーモアも無い”実の無いブログ”ですがよろしくお願いいたします。 

【感想】最近の日常的不可思議

はじめに

梅雨が明け、夏が到来。
猛暑に苦しむ中、今度は台風やらゲリラ豪雨やらで窓を打つ雨音に気を取られがちな今日このごろ。
皆さんこんにちわ。
今宵もなにかを綴るため、重たいゲーミングキーボードの位置を調整し始めました。
以前の自己紹介記事で「これから良いなと思ったものを備忘録として記録していく」と申し上げたと思いますが。
早速「お、良いなこれ」と感じるものがありましたので、記事にしていこうと思います。
 
今回とりあげるジャンルは「ノベルゲーム」です。
日頃私が趣味として嗜んでいるゲームジャンルの一つですね。
そして、これから紹介する作品は『最近の日常的不可思議』です。
 

最近の日常的不可思議

novelgame.jp

 

ノベルゲームコレクションという、「ティラノビルダー」と称されるノベルゲームエンジンや、それに付随するツールの開発元の方々が運営しているサイトに投稿された作品です。
投稿主は"Plastic Tekkamaki"というサークルさん。
本作だけではなく、以前には
非実在都市伝説の作法 Imaginary Fakelore』
『深夜徘徊のための音楽 beats to relax/stray to』
 
上記2作を手掛けて公開されています。
 
サークルHPというか、サークル主さんのサイトはこちら
 
 

本作を知ったきっかけ

私が本作を知ったきっかけはいくつかあるんですが、
まずはこちらのつぶやきがTLに回ってきたこと。

 

日頃プレイさせもらっているノベルゲームとは明らかに毛色が異なる。異色めいた空気を感じて目が釘付けになったを覚えています。
CG(動画)の表面にノイズを走らせる工夫とか、むっちゃおしゃれ且つエモいですよね。
キャラクターやお話で魅せるというよりも、ぱっと見の世界観、いわゆる"側"から何かを主張してきそうなインパクトを受けました。
 
他の要因としては、
同時期に毎年参観している「同人ゲームオブ・ザ・イヤー」の表彰式に、
前作『非実在都市伝説の作法 Imaginary Fakelore』が紹介されていたのを見たことが大きかったです。
その時はFakeLoreという単語が既に造語として存在していたことを知らず、
「この人はFolklore(伝承)とFakeをかけたFakeloreという造語を考えたんやな。ちょーセンスある!!」と勘違いして一人で勝手に盛り上がっていました笑
 
そんな出来事を経て、後日先程のつぶやきとFakeloreが同一人物のものであることを知り、2回も唸ってしまったからには是非ともプレイしてみたいということで、
この度、三作目『最近の日常的不可思議』をプレイさせてもらいました。
 
というわけで、感想を書いていこうと思います。
 
 

あらすじ

フリーライターとして駆け出し中の瑛は、取材で訪れたカフェで出会った高校生男女二人によって、奇妙なループに巻き込まれてしまう。
「永遠に月曜日を繰り返す」この事象についてなにかを知っていそうな女子高校生の理素と男子高校生のミズミからそう告げられる。
何百ものループを繰り返しているらしい彼女たちを見て、庇護欲を掻き立てられたのか、ちっぽけな責任感に促されたのか、瑛は彼女たちの脱出計画に協力することに。
 
 

どんな話?

永遠に月曜日を繰り返す世界線に放り込まれてしまった3人が基本ゆる~く脱出計画を練っていく。
ひたすら月曜日を繰り返すだけ。なんてことないループものに見えて、理素達が被ってきた被害は想像以上に深刻だったりする。
癒えるか分からない傷に苛まれつつも、日々を楽天的に送ろうとする二人の健気さに胸を打たれた瑛は、大人として二人にしてあげられることはなにかないのだろうかと模索を始めようとする。
と、いいつつも、いつものゆる~い"月曜日"をまた始めていく。
 
 

感想

しっとりと時間の流れを感じられるlo-fihiphopなBGM、シックな色合いのUI、
モノクロTVに映されたようなノイズが走るCG、不可思議にループする月曜日、
廃墟と化した学校、プロ崩れなフリーライター、何万回とループし続ける二人の男女高校生。
それぞれのパーツが組み合わさることで作り出されたこの世界観は美しく完結していて、惚れ惚れするような魅力に満ちていました。
ある種これもゲーム体験の醍醐味の一つとも言えましょう。
端的に言うと、作者さんのセンスがやばい。
UIなんて特にそうで、使い勝手悪い要素盛りだくさんなのにストレスを一切感じず、
ずっと眺めていたくなります。
ストーリーに関しても世界観に劣ることなく、これまた魅力的でした。
ループものというと、とにかく事態の解決に邁進するイメージを持っていたのですが、
本作は無理に急かそうとはせず、「そのうちなんとかなるっしょ」と気だるげにその日その日の日常が流れていきます。
そして、日常で繰り返されるなんてことない会話から、徐々に胸懐を暴くかのように彼らが抱えていた悩みや不安が浮き彫りになっていくのですが、
大人とは違い成熟しきっていない多感な彼らなりの悩み、将来に対する焦り、今置かれている立場について高解像度で描かれています。
大人から見ればなんてことない問題かもしれないけど、彼らにとっては僕らが思う以上に大きなスケールでのしかかり、精神を苛んでいるということ。
彼らの「今とこれから」はかつての自分の中にも確かに存在していた感情で、少し思いを馳せたくなります。
また、彼らが抱くものを傍で見ていた大人の瑛が思う「今とこれから」にも重なるものがあり、僕らの「在り方」について、ほどよく刺激を与えてくれる作品だと思いました。
「ループの行く末を追う」作品ではなく、「ループしているキャラクターの人物像に迫る」作品です。エモい。
 
 
lo-fihiphopだったりネオシティポップだったりchilだったりオルタナだったりするBGM
BGMは全曲自作されたとのことですが、とっっっっっっても良かったです。
私は日頃、考え事をしたい時や夜中寝られないときに"Lofi Girl”が24時間流し続けているBGM動画をよく聴きます。
動画から流れてくるスローペースで一定のリズムを刻むメロディたちは、どれも柔らかいぬくもりや雑味のない透明感があって心身を気持ちよくさせてくれるからです。
本作を起動し、テキストを読み進めようとじっと画面見つめた際に流れた音楽を聞いたときはデジャヴでした。
”lofi hip hop radio”で得ていた癒やしと同じものを本作からも感じてしまったのです。
この動画で流れていてもなんら違和感がないメロディが作中ずっと流れているのです。
それは従来のノベルゲームからはほぼ摂取できない要素で、このような形で日頃の癒やしと再会できたのはとても嬉しかったです。
作者さんの音楽センスに感謝です。
そしてこれらをすべて無料でDLできるという大盤振る舞い。
お気に入りは以下の三曲です。
C19_SadGuttar
C24_TightSnaredGuitar
C56_KeyWithShaker
 
 
モラトリアムは前進するために同居する。
ループ現象に巻き込まれた瑛は理素とミズミと共にこの現象を解決しようと模索しますが、
「なにもしない日がある」「楽しくやりたい」と彼らは悠長に月曜日を過ごしていきます。
手がかりもなく、理素がなにかを知っていそうな素振りを見せるも話そうとしない。
なんとももやっとする状況に瑛が下した判断は「彼らの自主性を重んじる」ということ。
それは彼女たちを想ってのものだった。
僕らは常に前を向き前進しなくてはなりませんが、時には一度立ち止まってゆっくりするのも前を向くために必要になっていきます。
それこそ多感な時期を生きる理素とミズミにとっては身体のこともありますが、
悩みと向き合うためにも、前進するためにも立ち止まることは決して悪手じゃないはず。
無理に介入せず傍観することを選んだ瑛は大人として良くできてるなあと、謎に感心してしまいました。
そして、最後まで彼らの路線を無理やり切り替えることなく「私達らしさ」を尊重にして火曜日に進もうと舵を切ったのもの好感が持てました。
確かに瑛が無理やり路線を変えてスリリングなSFアクションものになったりでもしたら、それはそれで「この作品らしくない」
彼女がつくりだす、ゆるやかな空気感は作品において良い意味で影響を及ぼしていると思います。
むしろ逆説的に「この作品らしい」というのはきっと「瑛らしい」なのかもしれません。
物語を早めたり、緊張感をもたせるのも瑛がもっと真面目な人間だったらきっとなっていたはず、でもそれは瑛が"ああいう人"だからやらなかった。
どこかだらしなく、ひねくれもの。それでも超えちゃいけないラインは見誤らない。そして人を信じられる思いやりを持つ。
本作の有り様を瑛が体現化してくれていました。
 
 
人間は「変化」を求める生き物である。
「一生楽できるループ日常」と「現実」どちらがいいか。
一生ループする日常とは違い、現実には辛いことがたくさん待ち構えているかもしれない。
なのになぜ、明日を臨もうとするのか。
理素とミズミはループを繰り返すせいで、記憶障害、味覚障害、自立神経失調症等、心身に大きなダメージを負ってしまいます。
彼女たちにとって「火曜日を迎えること」はそれらの障害から脱却することを意味することでもあるのですが、
そんな二人に瑛は度々将来について質問を投げかけます。
大人になったら何になりたいのか。
ループを繰り返し、"今の自分"に慣れてしまっていた二人は、それぞれ「こんなふうに変わりたい」というぼんやりとした夢を語ります。
そこには嘘はなく、純粋な期待と憧れが詰まっていました。
ループが続く限り夢は叶うことはなく、ループから抜けたとしても叶わないかもしれない。
けれど、ループさえ抜ければ可能性はゼロではない。むしろ無限大に広がっているはず。
ループという事象により、"将来を奪われてしまった"若者が語る夢と未来は切なくもありながら、芯の通った強さがありました。
人間は変化を求める生き物――
変化を望むからこそ夢に憧れを抱き、今に絶望しなくて済む……。
恐らくあの世界で一番それを願った二人が未来を語るのだから、そうに違いありません。
今在る日常に慣れきっていた私ですが、EDを聞き終わった後、ふと何もない天井を見つめ、見えない明日を想像している自分がいました。
面白かったです。
前作の登場人物が主人公とは知らなかったので、前作も是非やりたいです。
 
 
雑感(プレイ中に残したメモっぽいものを箇条書きにあげときます)
・文章のリズムが独特。「~なんだぞお」と語尾が「お」なのも見慣れないせいもきっとある。
・製作者さんmtgやってそう。
・映画も好きそうというか、好きじゃなきゃ説明入れないと思う。
・大昔の事象や詩が絡んでいくあたり、ゴジラSPみたい。この地に根付いた伝承を紐解くと実はSFだったみたいな。
・瑛のオーバーサイズなパーカーの下にadidasっぽいトラックパンツとオニツカタイガーみたいなスニーカーを合わせた服装はなんか今風で良い。
・「歩みがどれだけ遅くても、行く先が美しくなくても、足を止める理由にはならない」その思考が妙にドライで現実的というか、非現実にいたとしても思考や生き方は変えらないというのがこの作品を言い表しているようで印象的
・高校生にマジレスされる26歳よ。
・ゆるいギャグトークのとその合間に挟まれる思春期特有の青春事情だったりループ解明の調査の塩梅が絶妙だった。
・やっぱり製作者さんmtg好きそう、アリーナやってそう。
 
 

終わりに

最近の私は多趣味な人間になっているのか、なかなかノベルゲーム単体に時間を割くということが難しく、プレイスピードが落ちてしまっています。
ただ、こういった自分の好みにドンピシャな作品に出会えるとモチベーションが上がりますね。
他にも並行して進めていた作品があるんですが、どんどんプレイしていこうと熱が増しています。
こういう時こそ「月曜日がループすれば」永遠にノベルゲームがプレイできるのに……
 
お後がよろしいようで。
 
それでは皆さまさようなら。また会いましょう。